天父下凡

太平天国の神秘的性格を象徴しているのが、東王・楊秀清への天父下凡である。これは、天父エホバが楊秀清に乗り移って託宣するというもので、一種のシャーマニズムーーいわゆる神憑りーーであった。神仏や死者が人間に乗り移ることを中国南部では降僮(タンキー)というが、こうした現象はこのあたりではそれほど珍しいものではなかったようだ。
だが、当の洪秀全は悪魔のわざであるとして信者にはこれを固く禁止していた。にもかかわらず、よりによって第一の側近である東王の身体を借りて発生したこの突然の降僮、しかも、畏れ多くも天父ご自身の出現というのだから、洪秀全もかなり面食らったであろう。やむなく洪秀全はこれを「天父下凡」と称し、正真正銘天父ご自身の降臨であると正式に公認したのだった。
もっとも楊秀清のそれが本当に脱魂状態でなされたものかどうかについてはかなり怪しいといわざるをえない。というのも、楊秀清はのちに神の命令だとして洪秀全にとってかわろうとするからだ。もちろん、最初の天父下凡が正真正銘、無意識のなかでなされた奪魂現象だった可能性もないわけではない。だが、計画的ともいえるその巧みなやり口から見て、すくなくとも後半のそれは王位を狙う楊秀清の意図的な演技であった可能性が高いといえそう

 

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